2017年3月11日土曜日

スチールフレームを選ぶ理由

こんばんは。バイクカフェ カイエンドーです。
当店のポリシーは鉄の自転車と旅の自転車です。
旅の自転車はともかく、スチールフレームという古い材質の自転車に
21世紀の今、乗る理由とはなんでしょうか。

鉄の自転車 Elios Viaggio と旅の自転車 ARAYA Federal

結論から言いますが理由は2つあります。
1. 耐久性の高さ
2. 乗り味の良さ
そして初心者の方にこそ鉄の自転車に乗って頂きたいと考えています。
(フレーム材質としての鉄はCrMo鋼をはじめ多くの種類がありますが、
ここではすべてまとめて鉄と表記します)

1. 耐久性の高さ

鉄のフレームは耐久性が高いため、非常に長く乗り続けることができます。
愛車と永くつきあいたいと考える方は鉄を選べば間違いありません。
CrMo鋼やハイテン鋼は、事故や衝突などで大きな力が加わらない限り
半永久的に使えます。(オーナーの寿命が先に来ます)

鉄フレームは昔からある枯れた技術ですので、陳腐化することもありません。
最新スペックのハイブリッドカーは10年後にはただの旧式ですが、
50年前のクラシックカーは10年後もクラシックカーのままで価値は下がりません。
(むしろヴィンテージが深まり価値は上がります!)
鉄の自転車も似たようなところがあります。

ロードバイクの本場、イタリアでは古い自転車が当たり前の様に走っています。
左は70~80年代頃のビアンキ、右は1936年のレストア待ち自転車に乗ってご満悦な店長です。
たまたま通りかかったおじさんが乗っているのは若かりし頃に買ったビアンキだそうです。
プロムナードバーがイカす40年モノ!
(上の写真はブレシアから南、人口1万人程度の静かな田舎街で撮ったものです。)

また、万一クラックが入ったり、フレームが曲がったりしても
溶接や修復作業である程度までなら修理できるのが鉄の特徴です。

なお、ここから先は別に読まなくてもよい技術的な内容は小さく書いています。
興味の無い方は読み飛ばしてください。
(自転車は技術者によって理論的に設計されていますので、それを読み解くには
きちんとした学術的な解釈が必要だと私は考えているためです。)

 鉄は疲労限が明確にわかる金属ですが、アルミ合金では明確な値がないとされています。
 数年乗ったアルミフレームが急に破断したという例は割とよくある話です。
 鉄フレームも疲労で破壊しないわけではありません。20年ほど前の軽量レーシングフレームに
 ペダリングスキルの高いライダーが乗って、チェーンステー付け根にクラックが入ったものは
 実際に目にしたこともありますし、何件か聞いたこともあります。

 また、カーボンフレームはC/Cコンポジットであり、焼成によって強化材である
 炭素繊維をグラファイト化させて母材の樹脂を炭化させます。
 母材も一部はグラファイト化しますが不完全ですので、繰り返し応力下における
 母材-強化材間での剥離による破壊という、複合材料の本質的欠点は避けられません。
 全ての炭素原子が共有結合で強固にグラファイト化したフレームが作られれば解決しますが、
 それはまだしばらく先の話でしょう。
 鉄には疲労に強く強度に優れた材料であるという力学的優位性があります。
 それゆえに長期間にわたって使い続けることができるのです。

錆に弱い?

鉄が錆に弱いというのも半分正解、半分誤解です。
確かに鉄は錆びます。錆びますが、鉄の赤錆の下には
黒錆が生成されていることが多いです。
マンホールのフタや校庭の鉄棒のような黒い錆です。
この黒錆は非常に強固で、内部まで錆が進行することを防いでくれます。
この黒錆の下は鉄の地金が綺麗な状態で保たれています。
また、CrMo鋼は配合によっては非常に耐食性に優れた合金です。
通常の鉄よりは遙かに錆に対して強くなっています。
ただし赤錆には保護性能は無いため、赤錆が生じたら真鍮ブラシや錆取り剤で
こまめに取り除き、塗装などで錆を防止するとよいでしょう。

 鉄の錆で一番問題なのは、水酸化鉄(赤錆)が酸化鉄(II, III)(黒錆)になる際に
 遊離した一部の水素原子が金属鉄中に固溶し、水素脆化の原因となることでしょう。
 もっとも、MTBのように強い衝撃が加わるのでなければそこまで問題にはなりません。
 不動態被膜ができた鉄は腐食には大変強いのはご存じの通りです。

逆に、フレームに使われる高強度アルミ合金(7000系や6000系)は、
錆(腐食)に非常に弱い金属です。アルミは錆びると白い粉状になります。
また、アルミの錆は鉄の黒錆のように表面だけでは止まりません。
内部にどんどん進行します。
また、錆も白いため見分けが付きにくいので発見が遅れることもあります。
折れたりしたアルミフレームの原因のほとんどが錆に起因するものです。
(折れたサスペンションのインナーチューブを何回か見たことがありますが、
どれも見事に腐食していました。)

しかし、海水に浸けたり潮風が当たる海沿いで保管するとさすがに鉄でも持ちません。
カバーをかけましょう・・・

 こちらは腐食したアルミ製チェーンリング
 腐食がリングの内部まで進行してしまっています。
 層状になっているのは、鍛造で作られたリングに粒界腐食が支配的に進行したため
 考えられます。
 アルミの酸化皮膜であるアルマイトも耐食性を有しますが、酸化アルミは
 酸素透過性が高いため、陽極酸化などで意図的に厚く作られたアルマイト以外の耐食性は
 あまり当てにならないと考えてよいでしょう。

 アルミフレームの場合には、特に応力腐食割れによる破壊も要注意です。
 SCCによるき裂進展と弾性域の狭さで異常が現れる前に破壊してしまいます。
 腐食という材料に起因する化学的特性でも鉄には優位性があるのです。
 (尤も、カーボンはそもそも錆や腐食とは無縁ですね!)

 なお、日本の金属工学者、本多光太郎先生は「鐵は金の王なる哉」と評しました。
 人類とのつきあいの長さ、多岐にわたる用途を考えるとまさに鉄は金属の王者であり、
 鉄系合金に蓄積されたノウハウや新発見はまだまだ続くと私は考えています。

2. 乗り味の良さ

これに関しては個人の好みの問題ですので、あまり多くは書きません。
オーディオの音質だとか、カメラの写りのような問題になってしまいます。
ただ、あるメーカーではカーボンフレームを設計する際に、鉄に近い乗り味に
するということは聞いたことがあります。

 フレームにおいてはペダリングする際の横方向のたわみが重要で、
 このたわみがペダリングを妨げないフレームは乗っていて疲れない、
 また加速性や走行性能に優れたフレームとして現れます。
 巡航しているライダーにぴったりくっついてシートステーをよく観察すると、ペダリングに合せて
 左右にフレームがたわんでいるのがわかります。カーボンと鉄フレームで顕著です。
 鉄よりヤング率が相対的に高く剛性の高いアルミではこのたわみが小さくなります。
 アルミフレームが硬いと言われるゆえんはこの小さいたわみにあります。
 カーボンフレームが鉄の乗り味を模しているのはこの点を意図しているためでしょう。

 また、鉄フレームの乗り味で振動吸収性のみしか触れられない事がありますが、
 ペダリングに対するたわみの方が重要です。
 路面からの振動吸収性はホイールとタイヤ空気圧の寄与するところも大きいからです。

 尤も、私はMTBではクイックなハンドリングと軽量さ、即応性が重要であると考えていますので、
 MTBはアルミフレーム派です。路面からの振動はサスペンションとタイヤで吸収できますし、
 そもそも路面状況に対応するのはライダーの技量です。

細かい点はともかく、レースで勝つには軽量で高性能なカーボンフレーム一択です。
ですが、全ての人がレースに出るわけではありませんし、
安くなったとは言え10万円を軽く越えるカーボン完成車はまだまだ高価です。

現在、MTBでもリアサスペンション車がレースでは優位ですが、
楽しく走るならばフロントサスのみ、というのが共通認識だと思います。
オンロードの自転車でも同じ状況になると私は思っています。

また、現在カーボンフレームやアルミフレームに乗っている方も鉄に乗り換えると、
改めてカーボンやアルミの良さを再認識できると思います。
これもまた楽しい点だと思います。
それぞれの材料にはそれぞれの良さがあります。

初心者こそ鉄!

と言うわけで、以上の良い点を踏まえて、
私は初めてロードバイク・クロスバイクに乗る人にこそ
鉄フレームに乗ってもらいたいと思っています。
それはなぜでしょうか。
一つはフレーム設計やパーツの進化で、昔ほど鉄の自転車が重くないためです。
10万円以下で10kg台を切るスチールフレーム完成車も珍しくありません。
初心者でもスポーツバイクの性能を感じて頂ける軽量性能です。

そしてもう一つ、自転車にハマると確実に2台目を買うからです。
2台目に買う自転車は軽量なカーボンロードかもしれません。
休日だけでなく平日にも練習し、レースに参戦するようになるかも知れません。
また、チームメンバーとヒルクライムのタイムを競ったりすることもあるでしょう。
そうなるとあなたの一台目のスチールフレームは、日常のアシとして通勤車に、
または物置の奥で眠りにつくかもしれません。
通勤車になった場合には、エントリークラスの車種は拡張性が高いため
キャリアやフェンダーを付けて活躍することでしょう。
物置の奥に眠ったとしても、鉄のフレームは陳腐化しません。
もしあなたが10年後にまた鉄の自転車に乗りたいと思った時、
そこには10年前と変わらない価値を持つ鉄の自転車があるわけです。
最新コンポーネントを装着しても良いでしょうし、
10年前と変わらない、初めてのスポーツバイクの感動を思い出しても良いでしょう。
(ただしあなたは10年分老いてしまっています!無理は禁物です)

ずっとオーナーとともにあり続けられるのが鉄フレームの良さなのです。
だからこそ初めての1台が鉄フレームというのは幸せなことだと思います。
ぜひ、鉄の自転車に乗ってください。

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